シリーズだい11わ
「十六間のおやじと天狗」 信州新町
十六間のおやじと天狗 むかしむかしいつの時代かは知らないが日名に十六間家というたいそう大きな家があり、大変な勢いであったという。しかし、この大きな家には男主人一人しか住んでおらず、広い田畑を耕作するに何十人もの下男下女を使っていたそうである。
あるうららかな日、人々が田畑に出て働いていると突然あたりが真暗に雲って、「ウォー・・・今夜十六間の親父をさらいに行くぞ!!」と大きな声が空いっぱいに響きわたり、徐々に消えていったのである。さあ大変下男下女や村人は大騒ぎ、村一番の物持ち十六間の家に集まり「今夜は一晩中起きて、十六間様をまもらにゃならぬ」とてんでに鍬、鎌を携え、十六間の家の回りでは真昼かと思うように火を焚き、そして屋敷の一番奥の座敷に主人である親父を囲み、万全の防備をほどこしたのである。が、これは不思議、草木も眠る丑三つ時、今まで眠気など少しもなかった人々が、サァーッと吹いてくる生暖かい風にうとうと居眠りを始めてしまったのである。幾時間か過ぎ、皆が眠りからさめたときにはもうお天道様は頭の上まで上り、いつもなら畑に出て一汗流している時刻なのである。「おお十六間様が居ない。十六間様がさらわれたぞ!皆のしょう十六間様がさらわれたぞ!!」このことで村の中は蜂の巣をつついた様な騒ぎとなってしまった。
村人がてんでに思案をめぐらしている時一人の男が指さし「ああっあれはなんだ」皆いっせいに大屋根に目をやると、垂木の端に真赤な長い鼻の天狗の面がぶらさがっているではないか。下男がこの面を下ろして良く調べて見ると、中から十六間の親父は川向こうの山に住む天狗様があずかった。親父を帰してほしかったら今年から毎年指定するお宮に莫大なお供えをしろ」という内容の紙切がでてきたから又々大騒ぎ。村の有力者が幾人か寄り会い、話し合った結果「天狗様を怒らせてはどうなるかわかったものではない。お供え物をしさえすれば十六間様も救われるし、私共も安心というものだ」ということで米や魚を車に山ほど積んで天狗に指定されたお宮にお供えした所、その日のうちに無事十六間の親父も家にもどり、それからは二度とこんな奇怪なことは起こらなくなった。


発行「信州新町史下巻」信州新町教育委員会
え・倉石 和彦V